LAS Production Presents
Soryu Asuka Langley
in
starring Shinji Ikari
Written by JUN
Act.3 ASUKA
- Chapter 5 -
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まずやってきたのは、トウジだった。
びしょ濡れになった身体をまったく気にせずに、そして真っ赤な顔をしてヒカリに怒鳴った。
「か、か、買い物に行くでっ!つ、つ、つ、着いてこんかいっ!」
「うんっ!」
ヒカリはにっこり微笑んで頷いた。
「ほ、ほな、わしは着替えなあかんさかい」
そのままペタペタと廊下に足跡を残して、トウジは階下へと走っていった。
ヒカリはにこにこ笑いながらお出かけの準備をする。
「デートだってさ、いいなぁ」
「マナも相田君を誘ったら?」
「いいの。あんなの別にどうだっていいんだもん」
マナはふて腐れて言い捨てた。
そんな彼女の答えは無視して、ヒカリはさっさとおめかしする。
「じゃ、行ってくるね」
「はいはい、行ってらっしゃい」
マナの投げやりな返事にもヒカリは動じない。
そして、部屋を出る直前にアスカに耳打ちする。
「夜まで帰ってこないから、ね」
「えっ…」
「でも、お昼だからあまり大きな声出したらダメよ」
アスカは真っ赤になった。
「ば、馬鹿。もうしないわよ」
「馬鹿はアスカの方。碇君って相手がいるでしょ」
「な、なんてこと言うのよ」
まだ仲直りをしていない…というよりも、アスカが一方的に怒ってるだけだ。
その上性的知識の欠如による自己嫌悪で合わす顔がなかったわけである。
ただ一言謝って…いや、謝るまでもない。
シンジは自分が悪いと思ってるのだから、アスカが「許す」と言えばそれで万事解決なのだ。
あっちの方の先輩であるヒカリの言うような展開になる可能性は高い。
「あ〜あ、みんなバージンを安売りしちゃって。とんだ尻軽ちゃんたちだわ」
マナは平机にどすんと座り込んで天井を見上げている。
実は今回の旅行でそれを狙っていたのがマナ自身であったことを残りの二人はそれとなく知っている。
それだけにマナの不機嫌さも何となく可笑しく、そして同情してしまう。
「じゃ、行ってきます!」
ヒカリは明るく去っていった。
残された二人は一瞬顔を見合わせ、そして目を逸らした。
マナは自分がいては悪いのではないかと思い、
アスカは逆に、マナの言に寄れば相手がいない彼女に対して気まずく思っている。
……。
3分ほどの沈黙の中、ペタンペタンという湿った足音が聞こえてきた。
そして扉を叩く音。
無言で遠慮しあった末に、アスカが扉を開いた。
立っていたのは、これまた全身ずぶ濡れのケンスケだった。
「雨の中を濡れてくるのが流行なわけ?」
「とんでもない。あの…霧島さんいますか?」
「はいはい。マナぁ、今度はアンタみたいよ」
「何よ、いったい」
マナは不機嫌ですと顔で精一杯表現しながら扉に歩いてくる。
彼女と交代にアスカは平机に座って、ことの成り行きを楽しげに眺めていた。
「あのさ、カメラの修理ができてるんだ」
「ふ〜ん、そうなんだ」
「取りに行く時、一緒に行きたいって言ってたよね」
「へぇ…覚えてないわ、そんなこと私言ったっけ?」
「え…」
ケンスケの顔に落胆の色が浮かんだ。
さすがにその表情を見て、マナはしまったと思った。
アスカの手前、嬉しそうな顔ができないと突っ張っていたのだが、やりすぎだったかもしれない。
ここは彼女の十八番を出すしかない。
「なぁ〜んてね。行くに決まってるでしょ。約束しちゃったもんね。雨降ってるし、暇だもん。
誰か誘ってくれないかなぁって思ってたから、丁度よかったわよ。まあ、相田君でもよしとするか」
饒舌である。
アスカは思わずにこにこ笑ってしまった。
ケンスケの表情は見えないが、きっと喜んでいるに違いない。
「じゃ、早く着替えてきなさいよ。まさかそんな格好でデート…じゃない、お出かけするんじゃないでしょうね。
ほら、さっさと行く。あ、カメラ屋さんのあと、お昼奢ってよね。そのあと、映画でも付き合ってあげてもいいな。
それから、おやつはお好み焼き…はヒカリたちとぶつかっちゃいそうだから、あんみつで手を打ってあげる。
そのあとは……相田君が考えてね。最後は晩御飯も奢ってよ。全財産持って行ってよね」
「ああ、任せとけ!」
相田ケンスケ、この日のために持てる金をすべて使う気になった。
そう、コンドームの箱に隠し持っていた1万円札も使ってしまおうと考えた。
ラブホテル代にと考えていた資金だ。
まるで中学生のデートのようだが、よく考えたら彼にとっては初デートである。
その相手のマナにとっても、実は初デートであることを彼は知らない。
この二人の場合は、お互いに持っていた夏のアバンチュールのイメージとは大きく異なる可愛らしいデートになりそうだ。
ドタバタと廊下を駆け去るケンスケの背中を嬉しげに眺めていたマナは、
振り返るときに思い切り顔を引き締めた。
「仕方ないわね。残り物で我慢するわ」
アスカは吹き出した。
マナには女優の素質はなさそうだ。
「失礼ね。そんなに笑わなくてもいいでしょ」
憤慨しながらも、急いで身支度をするマナ。
そんな彼女の動きを見ているだけで楽しくなってくる。
「私も…ゆっくりしてくるからね」
「ま、マナったら!」
一気に頬が赤らむアスカ。
「でも、ちゃんと後始末しておいてね」
「マナっ!」
「バイバイっ!」
マナはあっという間に部屋から出て行った。
残されたのはアスカただ一人。
急に部屋が広くなったように感じられる。
「もう…」
アスカは声に出して言う。
「二人とも変なこと考えさせないでよ」
そうは言いながらも、アスカの目はある場所に釘付けになっている。
布団を片付けた押入れだ。
やっぱり布団をちゃんと敷いておいた方がいいのだろうか…?
ヒカリに聞いておくんだったわね…。
そんなことを漠然と考えてしまっていることに気付いて、アスカはうろたえた。
ば、ば、馬鹿ね、私って。
そ、そ、そんな展開になるわけないじゃない。
で、でも…。
もし、シンジが私を求めてきたら…私は拒否するのだろうか?
わからない。
いくら考えてもアスカは正解を導くことができなかった。
なるようになれば…とは考えられなかったのだ。
あの二人のように全身びしょ濡れになったシンジが自分のことを好きだといったなら…。
私はシンジに飛びついてキスしてしまうだろう。
そうなったら…あとは…。
アスカの体温は急上昇してきた。
動悸が早い。
顔が火照ってくる。
ちょっと待ってよ、馬鹿なこと考えるから妙な気持ちになってきちゃったじゃない。
早く来なさいよ、馬鹿シンジっ!
その時、扉を叩く音がした。
「碇です。アスカいますか?」
いるわよ!もちろん!
アスカは猛ダッシュで扉に突進した。
びしょ濡れのシンジを抱きしめて、「ダメだよ、アスカも濡れちゃうよ」って言われて、「いいの」って私が言って…。
うんうん、これでいい!
咄嗟に思いついた筋書きにアスカは納得した。
そして…。
「どうして、アンタ濡れてないのよっ!」
「はい?」
アスカはシンジの姿を見て呆気にとられた。
「話が違うじゃないっ!」
「何の話?」
「みんなずぶ濡れだったじゃないの。どうして、アンタは」
アスカはもう一度、シンジの姿を上から下まで眺め直した。
髪の毛もTシャツも、ジーパンの裾すら濡れてない。
「ああ、傘差してたし、少しだけ濡れてたから先にズボンだけ履き替えたんだ」
朗らかに笑うシンジがなんとなく腹立たしい。
アスカはすっかり拍子抜けしてしまった。
劇的な展開で告白し合う予定だったのが、劇的どころかのほほんとした空気が辺りを包んでいる。
「ま、入んなさいよ」
「いいの?」
「誰もいないの知ってるでしょ」
「えっと…、だから、いいの?僕が入っても」
シンジは頬を赤らめた。
その表情を見て、アスカも自分の言葉に顔を赤らめた。
まるで誘っているように思われたのではないか。
誰もいないから部屋に入れだなんて、下心が丸出しではないか。
もちろん、そういう色眼鏡で見ればではあるが。
アスカにとってはシンジが来るまでの間に色々と妄想していた経緯もあって、狼狽したのも仕方がないわけだ。
しかし、ここはマナを見習うことにアスカは決めた。
そ知らぬ顔でしらばっくれる。
「で、用件は何よ」
わかりきっていることをことさらに聞く。
「昨日のことをちゃんと謝ろうと思って」
「昨日のことって何よ」
「えっと、あの…」
君の乳房を掴んで揉んだことだよ。
そんな生々しいことを当人を前にして言えるわけがない。
当然のごとく口ごもってしまうシンジであった。
男らしくはっきりして謝る。
その上でアスカを好きだと告白する。
その方針でこの場に立っているのだ。
それが謝る時点で先に進まない。
進まなければ告白ができない。
シンジはジレンマに陥った。
ここは恥を忍んで、たとえ露骨なことでも言うべきではないか?
生真面目で融通の利かない性格が直球を投げ込もうとした。
「昨日の夜、階段のところで…あ、あ、あす、アスカの、ち、ち、ち、ち、ちぶ…」
「な、な、何言い出すのよ。こんな大通りで!」
アスカはシンジの手を掴んで、部屋の中に引っ張り込んだ。
そして扉をしっかりと閉める。
シンジは勢い余って、部屋の真ん中辺りまでつんのめっていった。
そして、アスカは後手で扉の鍵をかけた。
ふふふ、絶対に逃がさないからねっ!
まずは変な雰囲気ではなくシンジを部屋の中に閉じ込めることに成功したアスカだった。
シンジはアスカに向き直ると、謝罪を続けようとした。
「えっと、つまり、アスカの…」
「はいはい、私の胸を思いっ切り触ったことでしょう」
「う、うん」
シンジは真っ赤になってしまった。
「ま、事故とはいえ、女の子の胸に触ったのは重要犯罪行為よね」
「うん、だから謝ろうと思って」
「ただ謝るだけで許してもらおうだなんて虫が良すぎるわねぇ」
「えっ…」
「ちゃんと誓ってもらわないとね」
「あ、うん。じゃ、僕はもう二度と胸を触りません。だから許してください」
「ダメ。許さない」
「そ、そんな…」
アスカはさすがに視線をまともには合わせることができずに、次の言葉を発した。
「ち、ちゃんとOKもらったら、触ってもいいんじゃないの?」
「え…」
「アンタは自分の恋人の身体に手も触れないのかってことよ。それって彼女が可哀相なんじゃないの」
「だ、だって…」
シンジが恋人にしたいのはアスカなのである。
だから、そのアスカの胸を…。
シンジはだんだん混乱して来た。
「じゃ、どうすれば許してくれるんだよ?」
「そうねぇ。まあ、こういうときは責任を取ればいいんじゃないの?」
アスカは思い切りそっぽを向いた。
恥ずかしくてシンジの顔を見られない。
さすがに鈍感なシンジもここまで水を向ければわかるだろう。
アスカはシンジの口から言って欲しいのだ。
自分から告白するのがいやだと言うわけではない。
ただ、シンジの口から自分のことを好きだと言う言葉を聞きたいのだ。
「責任って…」
シンジの頭に真っ先に浮かんだ言葉は、“結婚”である。
あなたの胸を触ったから結婚して責任を取ります。
なぁんてね…。
シンジは苦笑してしまった。
「何笑ってんのよ!」
「あ、ごめん。変なことを考えちゃって…」
「変なことって何よ」
「いや、その…」
「いやらしいことでしょっ!」
「違うよ!全然いやらしいことなんかじゃないよ!」
アスカに決め付けられて、さすがに気色ばんでしまうシンジ。
巧みにアスカに誘導されているなどとは全然気がついていない。
そして、とうとう口走ってしまった。
「責任とってアスカと結婚しようって思ったんだよ!全然いやらしいことなんか…」
その言葉を聴いてニヤリと笑ったアスカの表情を見て、シンジは言葉がとまってしまった。
「もう遅いわよ…」
「あ、あの…」
「じゃ、責任とってもらうわよ」
「えっと…それって」
アスカの言葉のマジックにすっかり翻弄されているシンジだ。
「よく考えて御覧なさいよ。アンタ、3つのときに私の唇を奪って、それをネタに無理やり婚約したんでしょうが」
「うっ…」
記憶にない。
ないのだが、アスカの母親の証言もある。
実は昨日の夜に自分の母親にも電話して確かめた。
ユイはあっさりと婚約の事実を認めた。
そしてシンジが何故黙っていたのかときつめに言うと、少しむっとした調子でこう言った。
『だっておもしろいじゃない』
アスカの母親が電話で聞いたのと同じ返事だった。
どうやら本気でそう思っていたらしい。
どうせ、どんでん返しで楽しむつもりだったんだよ。
ただ、婚約だけはまぎれもない事実だ。
それに、婚約を言い出したのはアスカの方からじゃなかったっけ。
アスカの母さんがそう言っていたっけ。
僕にくっついて離れなかったって…。可愛かっただろうな、3歳のアスカって。
まあいいや。
シンジはそういうことに決めた。
どっちが言い出したのでもいい。
「どうしたのよ。何黙ってんのよ」
アスカは不安になった。
シンジが黙り込んだ上に、薄ら笑いを浮かべている。
まあ、不気味という感じの笑顔でないことが救いだ。
このシンジののほほんとしたところが、最初はいらいらしていた。
ところが今はそれが逆に愛しいくらいなのだ。
惚れた弱みっていうの?
アスカも苦笑した。
学校の連中に私の婚約者だってシンジの写真を見せたら何ていうだろう。
もし、こんなの変だって言う奴がいたら、再起不能にしてやる…!
「アスカ、どうしたの?何怒ってるの?僕が結婚で責任取るって言ったから」
「へ?」
我に返ったアスカは不安げな顔で自分を見ているシンジを見返した。
「私、怒ってた?」
「うん、すごい顔してた」
「あ…」
いけない。
これじゃ、埒が明かない。
どっちかが強引に話を持っていかないと。
時間はたっぷりあるが、この二人では夜になっても堂々巡りをしそうだ。
アスカは決意した。
「碇シンジっ!」
「は、はいっ!」
条件反射というのは怖いものだ。
親分子分の関係になって数日なのだが、シンジはしっかりアスカに反応している。
いける!このまま一気に押し切るのよ!
「5秒以内に告白しなさい!そうしないと、一生キスさせてあげないわよっ!」
「わわっ!け、結婚してくださいっ!僕と!」
5秒は短すぎた。
シンジに考える余裕がまるでなかったのである。
したがって、話題の中心だった“結婚”がテーマになってしまった。
まさか、いきなり“結婚告白”になると予想していなかったアスカは呆然となった。
シンジ本人も固まってしまっている。
アスカはごくりと唾を飲み込んだ。
まったく、この馬鹿シンジときたら、どうしてこんなに…。
「いきなり、プロポーズ?」
シンジはこわばった表情のままぎこちなく頷く。
アスカは溜息を吐いた。
「ま、どうやら、いきなりっていうのがアンタの得意技みたいね。
3歳でいきなりいたいけな幼児にキスするし、その上婚約しちゃうしさ」
だから、婚約を申し出たのはアスカの方だってば…。
そうは思いながらも、懸命にもシンジはそれを声にはしなかった。
アスカの発言にちょっかいをかければ、話がどんどん脱線するのはもう身に沁みてわかっているのだ。
「それから10年以上たって再会した時にも、いきなり私を裸にひん剥こうとするし。
まあ、私が敏捷だったおかげでビキニのトップだけで被害は済んだけど」
事故だってば…。
これって、僕一生そう言われちゃうのかなぁ…。
「胸だって事故を装って触るし。あ、キスしたときも、いきなり舌入れてきたしねぇ」
シンジは瞑目した。
いつの間にか胸を触ったことも、事故から故意に替わってるよ…。
「ま、そんなヤツだから仕方ないか…」
アスカはわざとらしく言った。
目を開けたシンジは、そっぽを向いているアスカを息を止めて見つめた。
その美しい横顔は、彼に早く何か言いなさいと誘っている。
シンジは何も思いつかなかった。
それに、どうせ“いきなり男”だと決め付けられているのだ。
シンジは苦笑すると、いきなりアスカの頬にキスをした。
ちゅっ。
アスカは慌てて飛びのいた。
「な、な、な、何するのよ。いきなり!」
「だって、今アスカが言ったじゃないか。僕はいきなりが得意技だって」
「ああっ!人の揚げ足とって楽しい?」
「別に楽しくはないけど。でも、アスカにキスするのは楽しい…っていうか、嬉しい」
それはアスカも嬉しい。
だが、いきなりはいやだ。
アスカは顎を心持ち上げた。
綺麗な顎のラインが強調される。
そして、アスカは壁と天井の境界線を睨み付けながら言った。
「はん!仕方がないから、結婚してあげるわよ!」
「えっ!今すぐ!」
これだ…。
アスカはおでこを指で押えた。
この馬鹿シンジときたら、どうしてこんなにぼけぼけなのよ。
アスカはシンジに向き直ると、つかつかと目の前まで歩み寄った。
胸倉を掴もうと思ったが、Tシャツの襟が伸びるから慈悲深くそれはやめた。
腰に手をやり、真正面からシンジを睨み付ける。
「この馬鹿シンジ!アンタ、17歳でしょうが!
私は16超えてるから結婚できるけど、アンタはできないの!
ほんとにおとぼけなんだから、どうしようもないわね!
適齢期になったら結婚してあげるって言ってんのよ!
そのかわり、私が浮気しないようにアンタはずっと監視するのよっ!」
「えっ!アスカ、浮気するのっ?!」
アスカはツーといえば、ツーとしか返してこないシンジに脱力してしまいそうだった。
「誰が浮気をするって言ったのよ!」
「アスカ…」
「あのね、それは言葉の綾ってヤツじゃない。
私にその気がなくても、こんな美人を世間の男どもがおとなしく見ていると思う?
狼かハイエナのように私に襲いかかってくるわよ!」
「えっ!」
「それを防ぐのがアンタの役目だって言ってんじゃない!やる気ないの?」
「あるよ、ある!24時間、アスカを守る!」
アンタはセコ○か。
アスカは思わず微笑んでしまった。
「じゃ、私のそばにいなさい。馬鹿シンジ」
「うん!あ…」
困った表情になるシンジ。
またわけのわからない心配をしてるに決まってる。
アスカは確信していた。
「何よ」
「アスカは女子高じゃないか。僕、転校できないよ」
やっぱりそうだ。
「誰が転校して来いって言ったのよ。そばにいなさいってのは、精神的なものに決まってんじゃない」
「あ…!」
「その代わり、大学は同じところに来なさいよ。学部もね」
「えっと…アスカはどこ受けるの?」
シンジはおずおずと尋ねた。
「へ?第一東京大学の法学部に入るのに決まってるでしょ」
受けるのではなく、もう入学することになっているらしい。
成績はいい方だが、第一東京の法だなんて考えたこともなかったシンジは少し青ざめた。
「アスカは…成績がいいんだ……」
「ん?全国模試で特Sランクだけど?」
ああ、それなら好きな大学を選べるようなものだ。
AとBのランクの間をウロウロしているシンジは決意せざるを得なかった。
死ぬ気で勉強しようと。
「はは〜ん、どうやら今の学力じゃ無理みたいね。どう?私がアンタに合わしてあげようか?」
「そんなことしないでいいよっ!」
シンジははっきりと言った。
内心アスカは狂喜した。
ほら、ごらんなさいよ。シンジはただのぼけぼけじゃないんだから。
「でも浪人は不許可よ。現役で入るんだからね」
「が、がんばるよ」
「よしっ!じゃあ、特別の家庭教師を用意してあげるわ」
「えっ!アスカを?」
その答はアスカの気に入った。
しかし、それは正解ではなかった。
「残念でした。リツコよ。話に聞くととんでもないスパルタ方式らしいから」
「げっ!」
リツコの恐るべき家庭教師の話をシゲルから聞かされていたシンジは、顔面が蒼白になった。
アスカと結婚する前に、死にたくない…。
「僕がんばるから。死ぬ気で勉強するから。それだけは…」
「OK。どうせ、仕事が忙しいから断られるのは目に見えてるからね」
アスカはにやりと笑った。
「あっ!はったりかましたんだ」
「はん!結果がすべてなのよ」
「アスカってお母さんみたいな弁護士になれそうだ…」
「あったり前じゃない。で、アンタは何になるの?」
「えっと…みんなみたいには…」
躊躇うシンジ。
いずれにしても母親たちのような敏腕弁護士にはなれそうもない。
切った張ったのやり取りがシンジのキャラクターでできるとは到底思えない。
アスカにもそれはわかる。
「じゃあさ、私の助手はどう?事務弁護士ってのは」
「え…」
「それなら、さ…。ずっと、一緒にいられるんだし…」
上目遣いに見上げるアスカは、シンジが始めて見るような雰囲気に包まれていた。
シンジは呆然とした。
こ、これは…もしかして、いや、間違いない。
アスカが自分に甘えているんだ。
可愛いっ!
シンジはぎゅっとアスカを抱きしめてあげたくなった。
アスカ自身も自分が信じられなかった。
こんなことを自分がするなんて。
たとえ好きな男性に対してでも、あの甘えた声に態度。
ユイやキョウコが見れば、3つのときと同じだと大喜びしたところだ。
シンジがアスカのこの新たな攻撃に耐えられるわけがない。
彼は喜んで陥落した。
「うん、じゃ僕それになる。絶対になるよ」
「やったぁ!約束よ、約束」
「うん、約束」
「じゃ、して…」
アスカは目をつぶって、その愛らしい唇を突き出した。
1時間にも思える10秒が過ぎたが、シンジの唇は接触してこない。
辛抱できなくなったアスカが薄目を開けると、真剣な顔でシンジが悩んでいた。
「何してんのよ。唇がひょっとこになっちゃうじゃない」
「どのキスをしたらいいのかな?ははは…」
「はぁ?」
シンジはこの夏、3回のキスを経験している。
ミサトとの濃厚なビール味ディープキス。
アスカとのレモン味のこれまたディープキス。
そして、キョウコとの小鳥のようなライトキス。
さて、この場合はどうしたらいいのだろうか?
ディープキスをしたときにアスカには頬に一発いただいている。
「もう…世話の焼ける。ママとしたのでいいわよ」
「あ、うん。わかった」
いきなり、シンジの顔が迫ってきた。
慌てて目をつぶるアスカ。
ディープキスの経験のために唇を強く押し付けられるのだとアスカは構えていた。
ところが、シンジの唇は軽く触れたと思うと、すぐに離れ、そしてまた軽く触れてくる。
わっ!何これ!
アスカはその感触にすぐに夢中になってしまった。
自分からもシンジの唇を求めていく。
お互いの唇を挟んだり、キスする場所を唇の端にずらしたり…。
いつの間にか、二人はお互いの背中を強く抱きしめていた。
もちろん、キスに熱中しながらも、胸のふくらみがシンジの胸に当たってひしゃげているのを二人とも猛烈に意識している。
そして、そんなキスを数分も続けているうちに、どちらからともなく舌を絡めあっていた。
アスカは気が遠くなりそうなくらい興奮している。
彼女はキスしながら自分の太腿をずっと摺り合わせていた。
股のつけねが熱くて、我慢できないのだ。
シンジもアスカのそんな様子に気づいていた。
さすがのシンジも、トイレに行きたいわけではないことくらいは察知している。
だからこそ、彼は後悔していたのだ。
昨日の夜、たった1枚しかないモノを捨ててしまっているのであった。
ああ!僕はなんて馬鹿なことをしてしまったんだ。
で、でも、もう我慢できない!
「あ、アスカ…!」
唇を離したシンジは熱のこもった目でアスカを見つめた。
アスカは頷いた。
やっぱり、お布団敷いておいた方がよかった。
でも、いい。畳の上でも、どこでも。
二人はまた舌を絡めあった。
そして、ゆっくりと膝を折り、畳の上に横になる。
シンジが畳を背中にし、胸にはアスカの重みを感じている。
アスカはただシンジに知られることが恥ずかしかった。
触れられれば、見られれば、すぐにわかってしまう。
自分の身体がどんなにシンジを欲しがっているのかを。
そんな気持ちがアスカを逆に大胆にした。
「シンジっ!」
アスカは軽く叫ぶと、シンジの唇を求めた。
このとき、時計はまだ11時前。
二人の時間はたっぷりとあった。
……。
はずだった。
タラタラタタァラ〜タァラタラ〜…。
アスカの携帯電話が突然メロディーを奏でた。
あまりに場違いな、サザエさんのテーマ。
アスカはがっくりきた。
無視して今の行為を進めるには、あまりにお馬鹿なメロディー。
もっとロマンチックな着メロにしておけばよかった…。
台無しである。
すでにシンジは吹き出してしまっている。
「は、早く、と、取りなよ。ははは」
電源を切っておかなかった自分をアスカは呪った。
アスカは脱力感に包まれながら、充電器に置きっ放しにしていた携帯電話を取り上げた。
これがマナかヒカリだったら…。帰ってきたら、お仕置きしてやるから。
「はい、もしもし」
不機嫌この上ない低音ヴォイスで答えたアスカの耳に聞こえてきたのは…。
「私。今日で帰るのに、貴方たちは見送りに来る気ないの?」
そうだった。
突拍子もないときに現れる女の存在を忘れていた。
「リツコ。アンタねぇ…何考えてんのよ」
「今?見送りに来ないなんて随分と冷たい女だと思ってるけど」
「あのねぇ。アンタが帰るとかそんなの、私全然聞いてないわよ」
「当然ね。私言ってないもの」
「アンタ、言ってないのに、来ないから冷たいなんておかしいじゃない」
「メールだから。聞いてないのじゃなくて、読んでないが正しいわね」
アスカは力なく首をふった。
「あ、そう。メールだったの。ごめんね。読、ん、で、なかったから」
「で、来ないわけ」
「何時の電車よ」
「メールに書いたけど」
「だから、読、ん、で、な、い、ってば」
「あらそう。仕方がないわね。11時32分よ」
「え!今…」
アスカは時計を見た。
11時12分。駅まで歩いて15分。
雨の中を歩いていくのも億劫だ。
それに中断された現状をどうするか。
アスカにとってはリツコの見送りよりもこの方が最重要課題だった。
「悪いわね。今からじゃ…」
「あらそうなの。いいわ。二人にもそう伝えるから」
ぷつん。
リツコはあっさりと電話を切った。
「ち、ちょっと…!もう!いったい何よ、一方的に」
アスカは携帯電話の電源を切って、充電器に戻そうとした。
そして、リツコの言葉を反芻した。
二人にも…?
二人って誰よ。
アスカは電源を入れなおし、メールを確認した。
『明日午前11時32分発で帰京。患者も同行。以上』
「ええっ!患者って、もしかして…」
アスカに画面を見せられたシンジは頷いた。
「綾波さんだよ」
「二人って言ってたから、きっと渚のシンドバットも一緒よ」
時計を見ると、11時15分を過ぎていた。
「走るわよ、シンジ!ちんたら歩いてたら間に合わないわ」
「わかった!」
11時28分。
ホームにはまだ電車は入ってきていなかった。
雨はしとしとと降り続け、線路や敷石を暗く塗り替えている。
ホームの外れにある長いすにはレイが力なく座っていて、その手を横に寄り添うカヲルが優しく握っていた。
「もう一度、会いたかった」
「大丈夫だよ。また会えるさ。退院したら…」
「あら。そこまで待たなくてもいいわよ。ほら」
傍らに立つリツコがしゃくった顎の先、線路を挟んだ向かい側のホームの改札口に走りこんでくるアスカとシンジがいた。
「あ…!」
レイが立ち上がる。
「ごめんねっ!」
こちらのホームに叫びながら、アスカは手を大きく振って陸橋へ走る。
シンジも顔を引き攣らせながら、手を振ってアスカの背中を追いかける。
そして、靴をたぽたぽと湿った音をさせて、アスカとシンジは3人の前に立った。
「ご、ごめん。メール見てなかったの」
「よ、よかった。間に合って」
そういったシンジのズボンとTシャツ、それに手と顔が泥だらけだ。
「碇君、大丈夫?」
「あ、この馬鹿、途中でこけちゃって。情けないったらありゃしないわ」
「ジーパン破れてるよ。怪我してるんじゃないかい?」
「はは…ちょっとだけね。痛いっ!」
リツコが擦りむいたところを指でつついた。
「アスカ、あとで唾でも擦り込んでおいたらいいわ」
「わかった。ぐりぐりっとね」
「か、勘弁してよ」
みんなで笑いあっているところに、電車が到着するアナウンスが流れた。
「あ…」
「じゃ、お別れだね」
「お見舞いに行くからね」
アスカの言葉にレイが微笑んだ。
「二人で…ね」
アスカはにっこりと笑った。
「当然でしょ。あ、二人とも私とシンジの結婚式には出てもらうわよ」
「えっ…いつ?」
「んっと…、何年かしたらね」
「じゃ、競争…」
レイが傍らのカヲルの腕に身体を寄せる。
それを見て、アスカも負けじと泥だらけのシンジの身体を引き寄せた。
「はん!負けないからね!私の方が幸せになるもん」
「幸せなら…私、もう幸せだから…」
顔を赤らめカヲルの腕に頬を寄せるレイの表情を見て、アスカの目には今朝のヒカリと重なるものがあった。
はは〜ん、この二人…。できちゃったわね…。
できそこなってしまったアスカは少し妬ましく、そして羨ましく思った。
「ほら、電車がきたわよ。この二人とずっと一緒だなんてたまらないわ…」
ぼそりと呟くリツコに、アスカとシンジは吹き出した。
レイとカヲルにも白い歯がこぼれる。
びしょ濡れで泥だらけの二人に見送られ、希望を乗せた電車は発車した。
小さくなっていく電車に手を振っているアスカとシンジの手は硬く握られている。
「成功するよね、手術」
「当たり前でしょ。あれでも世界的名医なのよ、リツコは。ちょっとおかしいけどさ」
「そうだね。ちょっとじゃなくて、かなりだと思うけど」
「はは!シンジも言うわね」
笑いながら、シンジを見たアスカは改めてシンジの惨状に目を丸くした。
「うわっ!酷いわねぇ、泥だらけじゃない。どんなこけ方したのよ」
「だってアスカの後ろ走ってたら、跳ねた泥が顔にバシバシ当たるんだから」
「あっ!こけたのは私のせいだって言うの?」
「そうは言ってないじゃないか。それに…」
「何よ」
「もうアスカだって泥だらけだよ。僕にくっついたから」
「ええっ!」
アスカは自分の手や服を見渡した。
確かにシンジの泥が自分にもいっぱいついている。
「あ〜あ、酷〜い」
「顔にもついてるよ」
「もういいわよ。どうせ、びしょ濡れだしさ。靴もたぽんたぽんいってるし」
「お風呂入らなきゃね」
「アンタ…一緒に入ろうだなんて考えてるんじゃないでしょうね」
「ま、まさか、民宿青葉には混浴はないよ」
「あ、そっか。もしあったら入るつもりなんだ。このスケベ!」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
「うっさいわね。言ってなくてもその顔に書いてあるわよ」
「書いてないよ」
「書いてる!」
「書いてないって!」
民宿までの間、傘も差さずに全身ずぶ濡れになりながら、アスカとシンジは歩いた。
言い争いながらも、二人は幸せだった。
下着までぐっしょり濡れ、顔に泥がこびりついていても、心は温かい。
結局、二人は先ほどの続きはしなかった。
卓球をしたり、カラオケをしたり、開店休業状態の浜茶屋にシゲルとマヤをからかいに行ったり…。
ヒカリたちが帰ってきたときは、二人でババ抜きをして遊んでいた。
その様子を見て、ヒカリとマナは笑ってしまった。
そして、6人で夜遅くまでトランプやUNOで遊び続けたのだった。
まるで子供のように、笑い騒ぎながら。
「で、したの?碇君と」
「してないわよ」
「ええっ!せっかく気を利かしてあげたのに!」
「だから、知り合いを見送りに行って…、そんな気分じゃなくなっちゃったのよ」
「ふ〜ん」
「よかった。私だけ取り残されたかと思った」
「はん!甘いわね、マナ。チャンスはいつだってあるのよ。ここから帰ってもね」
「そうよね、アスカと碇君はフィアンセなんだから」
「うわっ!何よ、ヒカリのその余裕たっぷりの言い方は!」
「同じ大学に行くんでしょ、ヒカリ」
「うん。約束した」
「あ〜あ、アスカもそうだって?碇君かわいそう」
「そうね。第一東京の法学部だなんてとんでもないところ狙わせて」
「大丈夫。シンジなら絶対にがんばってくれるわ」
「もう、惚気ちゃってさ…。あ、私、大学やめたから」
「えっ!進学しないの?就職?」
「うん。早く生活安定させたいしさ」
「マナの家って苦しかったっけ?」
「はい?ああ、違うわよ。大学行ってもさ、私勉強嫌いだし、意味ないもん。それより早く収入を得たいんだ」
「はは〜ん、そういうことか」
「何よ、そういうことって」
「アスカ、あまり突っ込んだらダメよ」
「わかってるって」
「何よ、二人とも!」
「もう、寝ようよ。2時過ぎたわよ。明日は晴れるって」
「あと3日か。後悔しないようにたっぷり泳がなきゃ」
「そのあとで浜茶屋にも行かないとね」
「おやすみ〜」「おやすみ」「おやすみ!」
もともと真っ暗だった部屋に静寂が訪れた。
しばらくして…。
「アスカ?」
「何?」
「今晩はしないでよ」
再び静寂。
そして、マナの顔の辺りに物体が飛来してきた。
「きゃっ!何すんのよ、スケベアスカ!」
「うっさいわね!きゃっ!」
「やめなさいよ、枕投げなんか…痛いっ!やったわね!」
3人娘の馬鹿騒ぎは隣室から壁を叩かれるまで続いた。
翌朝。
空は青く、海もまた青い。
「いらっしゃいませ!」
「来てやったわよ。私、焼きそばね。あ、飲み物はジンジャーエール!」
Soryu Asuka Langley
Shinji Ikari
Mana Kirishima
Hikari Horaki
Kensuke Aida
Touji Suzuhara
Misato Katsuragi
Ryouji Kaji
Rei Ayanami
Kaworu Nagisa
Kouzou Huyutuki
Shigeru Aoba
Maya Ibuki
Ritsuko Akagi
Soryu Kyoko
The Summer Knows
THE END
その夏の、とある海岸での物語はこれで終わりだ。
だが、その後の彼女たちの姿をあとがきに替えて知らせておきたいと思う。
まず、ミサトはサルジア共和国から加持の首に縄をつけて帰国し、すぐに結婚。
まだ子供には恵まれないが、幸せに暮らしている…らしい。
少なくともミサトは。
リツコは相変わらずのマイペース。
そのリツコの手術を受けたレイは火傷の跡がほとんど見えなくなった。
そして退院後、あの洋館に戻り、冬月を親代わりとして暮らすようになった。
もちろん、訴訟は完全勝利。
ただし、レイはスーパー青葉で働いている。
その同僚に綾波カヲルという青年がいて、閉店後仲良く肩を並べて帰る二人の姿はご近所の風物詩だということだ。
さて、スーパー青葉の店長はシゲルだった。
彼は民宿青葉の若旦那も兼務している。
両方の仕事を親に押し付けられたのは、制裁という事になるらしい。
何の制裁かというと、青葉の若女将とその愛娘の存在のためだ。
あの夏が過ぎ、冬が来たとき、にこやかに笑うマヤに耳元であることを囁かれたシゲルはすぐに退学届けを出した。
そして、自宅に戻り母親に頬を叩かれ、父親に反対の頬を殴られた。
そのあと、マヤと一緒に彼女の両親を訪ね、その母親に泣かれ、父親に殺人的な視線で睨みつけられた。
どうやらあの夏にできた子供のようである。
マヤも未練なく大学を辞め、青葉家に入った。
出産後は、世間でも評判の母親であり、若女将だ。
ヒカリとトウジは同じ大学に入り、将来の生活設計を目指している。
どうやら、どこかの町で喫茶店を開くことが二人の夢らしい。
順風満帆とはこの二人のことかもしれない。
マナは宣言通りに就職した。
カメラマンの夫の生活を支えるためだ。
その夫はまさか十代で結婚するとは思いもかけていなかったため、必死になってカメラマンの修行をしている。
カメラマンとして安定した収入を得るまでは子供は作らないそうだ。
そして、問題のこの二人は…。
「シンジ、優しくしてね」
「うん。わかってる」
「お願いね。シンジ…愛してるわ」
「僕も愛してるよ、アスカ…」
数刻後…。
「な、何よ、全然優しくしてくんなかったじゃない!」
「だ、だって。よくわからなくて」
「うっさいわね!ああ…痛いよぉ…こんなに痛いなんて…」
「ご、ごめん、アスカ」
「もう!信じらんない!私がこんなに痛がってんのに、シンジったらあんなに気持ちよさそうな顔しちゃって!」
「で、でも、気持ちよくて…」
「ああっ!こんなの不公平よっ!私、今度生まれ変わったら男になる!」
「えっ!じゃ、僕は女に生まれ変わらないといけないの?」
「当たり前じゃない!それから、どんなに痛いか思い知らせてやるんだわっ!」
「そのときはお手柔らかにお願いします」
「いやよ!ほら、全然反省してないじゃない!」
「こ、これは…生理現象だから…ね」
「またそんな笑顔でごまかそうとする!今日はもうおしまい!ああ…痛い」
「そ、そんなぁ…」
「うっさい!でも、朝までずっと抱いていてね。もちろん何もしないでね」
「そんなの地獄だよ。勘弁してよ」
「ふん!でも、あの時してなくてよかったわ。もししちゃってたら、とても駅まで走れなかったわよ」
「はは…そうだね。でもさ、アスカはあの海岸でって言うんだと思ってた」
「あそこはあそこの思い出でいっぱいなの。だから、今日の痛〜い思い出は別の場所でって思ったのよ」
「まだ痛い?」
「当たり前でしょ。アンタにはわかんないわよ、もう!」
「ごめんね」
「こら!撫でるなっ!敏感になってんだから…」
「……」
「……」
「……シンジに会えて、本当によかった」
「僕も同じだよ、アスカ」
「シンジ、大好きぃ……」
あとはご勝手に。
あれから2年後の初夏、ある高原のロッジを借りた大学生の二人でした。
2003.11.09 ジュン
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